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原稿ポイ(ゆめ・ぴえろ)

創作の思い出

大学1回生のときに書いた原稿が出てきました。

うーん、懐かしい。

これも一応、完結はしているけど、いかんせん、稚拙。

まあ、思い出ということで、ここにポイ。

これは、どうして書いたのか(思いついたのか)思い出せる。

CHAGE and ASKAの「夢の番人」のMVビデオを見ていて、ふっと書きたくなったんだ。

結局、だいぶMVや歌詞の世界観からは離れてしまったけれど。

そういえば、しばらく「夢の番人」を聴いていない。

というか、CHAGE and ASKAを以前ほど聴いていない……。

曲を聴くとどうしても、いろいろなあれこれを思い出してしまって「ばかやろー」な気分になってしまう。自分の精神状態が安定していないから、余計に。

このまま私、フェードアウトしちゃうのかしら。

フェードアウトして、聴かなくなっちゃうのかしら。

嫌だなと思うけど、思えば思うほど、フェードアウトして、聴かなくなってしまいそうで、寂しい。

これ以上、悪い方向に進みませんように。

そんなわけで、原稿、ポイ。

 

ゆめ・ぴえろ

 

 改札を抜けると、そこは遊園地だった。

 ……おかしいな……。

 私は、今、自宅最寄り駅の改札を抜けたはずなのに。

 その改札を抜ければ、そこにあるのはいつも、下品に自己主張するパチンコ屋と赤い焼き鳥屋の提灯と平衡感覚を失った酔っ払い……それに私のように使い古された大人と欠陥品の少年少女の姿……なのに。

 そこには観覧車がありメリーゴーランドがありジェットコースターがあった。誰がどう見たって、遊園地だ。

 どうしたというのだろう。私は降りる駅を間違えたんだろうか。今日はまだ、酒は一滴も飲んでいないはずなのに。いや、そもそも、改札を出てすぐに遊園地があるなんておかしい。入場口とかあるんじゃないのか? ……それとも、私は幻を見ているんだろうか。これは幻覚か……幻覚を見るほどに、私は疲れていたというのか。

 どうしようもなく、そこにぼうっと突っ立っていると、誰かがこちらに向かって来るのが見えた。

 軽やかにスキップなんかしている。

 黄色い帽子に黄色い上着。それにズボン。上着もズボンも、サイズがあっていないのかぶかぶかだ。それに、黄色いブーツを履いている。赤い鼻に白い肌……それは、ピエロだった。絵本やアニメーションなんかで、昔よく見たピエロ。唇の端を吊り上げて、満面の笑みで私のところへやってくる。

 なんでピエロ……いや、遊園地だから、当然か……。

「ヨコソ、ヨコソ、ヨッコソ」

 ピエロが言った。きんきらきんの耳が痛くなるような、でも、可愛らしい声だった。「ようこそ」と言っているのだろうか。

 ピエロはひょこひょこ、私の周りを飛び跳ねながら「ヨコソ、ヨコソ、ヨッコソ」と笑っている。

「イコ、イコ、イッコ」

 そう言って私の手を引っ張りながら歩き出すピエロ。「行こう」という意味か? わからない。でも、抵抗する理由も元気も持ち合わせていなかった私は、引っ張られるままに、歩き出していた……。

 

 私はそのピエロと、メリーゴーランドにのったり、観覧車にのったり、ジェットコースターにのったりした。

 その姿はきっと、会社の仲間や親せき(家族はいない……手に入れる機会を逃したのだ)には決して見せることのできないものだったろう。そして、とても滑稽なものだったに違いない。中年男が遊園地のアトラクションに乗って喜ぶ姿なんか、コメディ意外のなにものでもない。

 しかし、その時、私の周りにはあの全身黄色のピエロ以外、誰もいなかった。それをいいことに、私は大はしゃぎで、次から次へとアトラクションを梯子した。

 ピエロも、

「タノシ、タノシ」

 と笑いながら、私と一緒にアトラクションを楽しんでいた。

 幻覚かと思っていたが、そんなはずあるまい。こんな楽しい空間が、こんな楽しい時間が幻覚であってたまるものか……そうだ、私はちょっと疲れていて、降りる駅を間違ったのだ。そして、その降りた駅の真ん前がちょうど遊園地で、本当はもう閉園時間だったのだけど、そのときにあんまり可哀想な様子のサラリーマンが来たものだから、サービスで遊ばせてくれたに違いない……そうだ、これは幻覚なんかじゃない……現実……現実……。

 私とピエロが噴水のふちに座って休んでいると、人影が近づいてくるのが見えた。シマウマのような柄の服を着たピエロ。やたら、脚が長かった。

「いかがでしたか?」

 そのピエロは、黄色い服のピエロとは違い、低い声ではきはきと喋った。

「楽しかったよ、とても」

「それはよかった」

「ヨカタ、ヨカタ」

 黄色い服のピエロは、ぴょんと脚長ピエロの肩に飛び乗った。

「そろそろ、お終いです。お帰りの時間を、私は言いにきたのです」

「……もう?」

「モウ。オシマ」

 私はガッカリした。とても楽しい時間だったのに……。

「また、来てもいいですか?」

「それはできません」

 脚長ピエロは悲しそうな声で、しかしはっきりとそう言った。

「デキナ」

 黄色い服のピエロの声も、残念そうだった。(きっと「できない」と言ったのだと思う)

「なぜです……?」

 脚長ピエロと黄色い服のピエロは、顔を見合わせた。

「この遊園地は、一人一回と決まっていますから……」

「……そうですか」

 そんなルールがあったのか。

 あんまり、わがままを言っても、このピエロたちを困らせるだけだ。

「じゃあ、お邪魔しました……今夜は本当にありがとう」

「改札まで、見送りましょう」

 

 私は改札のところでもう一度、二人のピエロに頭を下げた。

「今夜は本当にありがとう。楽しかった……ありがとう」

「アリガト」

「では、気を付けてお帰りください」

 私はその言葉にうなずいてから、彼らに背を向け改札を通った。

 改札を通る瞬間、脚長ピエロが、

「生きてなければ、ずっと居ていただけたんですがね……」

 と言っているのが聞こえた気がした。

 

 改札を抜けると、そこは見慣れた最寄り駅だった。

 ぴかぴか光る「パチンコ」の文字。赤い提灯。げらげら笑いながら歩く酔っ払い。地面を見て歩くスーツ姿の男女。地べたに座り込んで宴を開いている少年少女。

 見慣れた、光景だ。

 ……帰ろう。

 冷蔵庫の中にビールの一本くらいあったはずだ。

 私は重たい足を引きずるように歩き出した。

 信号が青になったのを確認してから、歩き出す。

 後ろから、

「危ない!」

 と叫ぶ声が聞こえた。

 また、酔っ払いが何かしでかしたのか……? そう思って振り返ろうとした瞬間、私は宙に浮いていた。

 ふうわり。

 すぐに地面に叩きつけられる私の体。

 頭がぼうっとする。

 ……ひょっとして、車にぶつかったんだろうか……信号は青だったのに……信号無視なんて危ないな……これだから、嫌なんだ、ここは。

―生きてなければ、ずっといていただけたんですがね。

 脚長ピエロの言葉。

 じゃあ、私は。

 これからずっと、あの遊園地で遊べるな。

 そう思うと、嬉しくてうれしくてわたしはえがおでじめんにねころがってた