読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

シナリオ形式

創作の思い出

シナリオ形式で書いているものもあった。

本当にいろいろやってんな。中途半端だけど。

 

「同窓会」

 

○警視庁捜査一課(二〇一六年・午後七時)

 荷物を鞄に詰めている小地谷三条(58)。

 人はまばら。

 通りかかった同僚、小地谷を見て、

同僚「明日、休み?」

小地谷「ウン。久しぶりに……じゃあ、お先に」

同僚「おう」

 小地谷、鞄を抱えて足早に出て行く。浮かない表情。

 

○小地谷家リビング(二〇一六年・午後十時)

 リビングには小地谷ひとりだけ。

 固定電話を見下ろしている小地谷。手にはハガキ。〈同窓会のお誘い〉と印字されている。

 小地谷、受話器を取り、深呼吸。

 

○皆藤家の和室(二〇一六年・午後六時)

 畳の上に寝転がっている皆藤美子(58)。

 手には封筒を握っている。

皆藤「……(小さな声で)嫌だなあ」

 

○祝園家ベランダ(二〇一六年・午後十時)

 祝園愛一郎(59)、ベランダの手すりにもたれかかり煙草をふかしている。

 スマートフォンの着信音(軽快なJポップ)。

 画面を確認した後、出る。

祝園「よう、どうした、珍しい」

 祝園、相手の話を聞きながら意地の悪い笑みを浮かべている。

 

○津田家リビング(二〇一六年・午後十時)

 受話器を置く津田直彦(58)。

 大きく深呼吸を一つ。

 

○小地谷家の玄関(二〇一六年・午前九時)

 小地谷、玄関のあがりに座って靴を履いている。浮かない表情。

 小地谷の後ろに立っている妻・弘子、やや心配そうに、

弘子「気が進まないんなら、やめとけば? これまで、音信不通だった人たちなんでしょ? いいじゃない、別に、今さら会わなくたって」

小地谷「音信不通だったわけじゃないよ。年賀状は毎年、やり取りしてたし」

弘子「でも、それだけじゃないの。大丈夫? 詐欺かなんかじゃないでしょうね」

小地谷「(小さく笑いながら)そんなんじゃないよ」

 小地谷、ボストンバッグを持って立ち上がる。

小地谷「行ってきます」

 小地谷、浮かない表情に戻って扉を開ける。

 

○大学内の学生用スタジオ(一九七八年・午後四時)

 中へ向かって押し開けられる扉。

 中へ入る小地谷(20)。

 しんと静まり返ったスタジオ。

 スタジオの中心に置かれた椅子。

鈴木恵美(20)が椅子に座っている。うなだれていて顔は見えない。鈴木の前には、マイクスタンド。

小地谷「鈴木?」

 鈴木に近寄る小地谷。

小地谷「鈴木?」

 小地谷、鈴木の肩に手をかける。

 ゆっくりと椅子から崩れ落ちる鈴木の身体。

 鈴木の首に絞められた痕が残っている。

小地谷、目を見開き息を飲む。

 

○田舎道(二〇一六年・午前十時)

 田舎道を走るソアラ

 小地谷が運転している。

 

○山の麓のログハウス前(二〇一六年・午前十一時)

 やや古びたログハウス。

 ログハウスの前には二台の乗用車。

 小地谷、空いたスペースに車を止める。

 車の音を聞きつけ、外に出て来る津田。

 車から降りる小地谷。

津田「おう、小地谷。久しぶり」

小地谷「ウン」

津田「道、わかったか?」

小地谷「大丈夫だった。カーナビもあったし」

津田「ふうん。ま、中、入れや。荷物はそんだけ?」

小地谷「ウン」

 小地谷と津田、揃ってログハウスの中へ入る。

 

○廊下(二〇一六年・午前十一時)

 二人、前後に並び廊下を歩いている。津田が前、小地谷が後ろ。

津田「先に部屋に案内するよ。二階に客室はあるから」

小地谷「ありがとう」

 階段をのぼりながら小地谷、津田に話しかける。

小地谷「ずいぶん、立派な別荘だな」

津田「別に立派じゃないさ。親父がバブルはじける前に建てたんだ。あぶく銭にぴったりの別荘だよ。結局、ほとんど使わずじまいだったんだから」

小地谷「それで、もらったのか」

津田「親父もいい加減、齢だから。使ってくれって鍵、もらったんだ」

 津田、突き当りの扉の前で立ち止まる。小地谷もそれに合わせて足を止める。

 津田、扉を押し開けながら、

津田「ここが、小地谷の部屋。小地谷の向かいが祝園で、隣が皆藤だから」

小地谷「二人とももう来てるのか?」

津田「いいや。皆藤さんだけ。祝園は、いつもの遅刻だろう」

 小地谷、鞄をベッドの上に置き、すぐに部屋を出る。

 

○別荘のリビング(二〇一六年・午前十一時)

 リビングに入る小地谷と津田。

 皆藤、椅子に座ってスマートフォンをいじっている。

津田「皆藤」

皆藤「(顔をあげて)あ、小地谷君。ごめん、気づかなかった」

小地谷「今、来たところだから」

皆藤「祝園君は?」

津田「まだだよ。いつも通りの重役出勤」

 おかしそうに噴出す皆藤。

皆藤「祝園君、遅刻の常習犯だったよね。変わらないなあ」

津田「遅れたくせに偉そうなんだから、タチが悪いよな、アイツは」

小地谷「皆、それで許してたしな」

 外から車のエンジン音。三人、音のした方へ顔を向ける。

津田「噂をすればじゃないけど、祝園かな。見てくるよ」

 リビングを出て行く津田。

小地谷「祝園にしちゃあ、早い方だな」

皆藤「同窓会だからじゃない?」

 冗談めかして言ってから、口をつぐむ皆藤。その顔は自分の発言を後悔しているようにも見える。

 返事をしない小地谷。

 津田と祝園の話声が近づいてくる。

 

○学内のスタジオ(一九七八年・午前十一時)

 スタジオ内に鳴り響く演奏と、小地谷の歌声。

 小地谷がギターとボーカル、津田がベース、皆藤がキーボード。

 なんの前触れもなく開けられる扉。祝園(21)が入って来る。

 ぴたりと止まる音楽。

祝園「なんだ、続けてくれていいんだぜ」

 ノートに書き込んでいる最中だった鈴木、それを閉じて立ち上がる。

鈴木「祝園君たら、九時に始めようって言ってたのに。待ってたんだよ」

祝園「起きたら十時すぎてた」

津田「最近、寝坊してばっかりだな」

 やや責める調子の津田。祝園は眠たそうに大きな欠伸を一つ。

祝園「来月末、小説の懸賞の〆切があるもんでね。原稿を書いてたら、寝るのが朝になっちまった」

 皆藤、顔をしかめる。とげとげしい口調で、

皆藤「コンテストも来月なんだけど。小説書く暇はあるのに、ギター弾く暇はないってわけ?」

 苛立ったように足を踏み鳴らす皆藤。床に当たってヒールが音をたてる。

鈴木「(なだめるように)まあ、練習には来てくれたんだし、いいじゃない。懸賞のほうも、祝園君にとっては大事なものなんだろうし……ね?」

祝園「(ニンマリ笑って)そうだよ、重要なんだ。ビッグチャンスってやつ。それに、俺はギターを弾く暇がないなんて言ってない。遅くまで小説を書いていたら寝不足になったってだけだ」

皆藤「だから……」

鈴木「(二人の間に割って入るようにして)まあまあ。こんなことしてたって、時間がもったいないし。このスタジオ、一時までしか借りれないし。練習、始めよう」

 不満そうな表情を隠さない皆藤。まだ、怒りが収まっていない様子である。

皆藤「恵美、祝園君に甘い」

祝園「お前と違って、理解力があるんだよ。俺の創作活動に協力的なんだ、お前と違って。鈴木はよくわかってくれてる、良い奴だよ」

 祝園の言葉に、照れたように笑う鈴木。

 その様子を、小地谷と津田は黙って眺めている。不満そうな表情の津田と、ただひたすらに無表情な小地谷。

 祝園、スタジオを見回した後、小地谷がギターを持っていることに気づく。

祝園「あれ。小地谷がギター弾いてたのか」

 小地谷、ギターをおろしながら、

小地谷「ウン。祝園が来るまでの間、僕が担当することになって。ギターなしだと、全体の雰囲気、掴みづらいだろう」

 ギターを差し出す小地谷。

 祝園、ギターを受け取る。

祝園「あー、そういうこと。サンキュ」

 祝園、片手でギターを持ち、もう片方の手で小地谷の肩を叩く。

 一瞬、身体を震わせ、俯く小地谷。微笑んでいる。

鈴木「さ、全員そろったし、練習しよ。ちょっと、曲をいじりたいとこ出て来たから、そこもう一回確認したいし、もう一回、頭からやってくれる?」

 それぞれ、楽器の前につく。小地谷はマイクスタンドの前に立つ。

鈴木「(手で拍子をとりながら)せーのっ」

 

○リビング(二〇一六年・午前十一時半)

祝園「よお、元気そうだな」

皆藤「祝園君、また遅刻」

祝園「そうか?」

皆藤「集合は午前十一時だったのに」

 皆藤、壁時計へ視線を向ける。つられるようにして壁時計を見る祝園。

祝園「誤差の範囲内だな」

皆藤「また、小説書いてて寝坊したの?」

祝園「ま、それもあるわな。でも書いてるのは懸賞用の原稿じゃないぞ。雑誌に連載してる推理小説

 椅子に腰をおろす祝園。津田に向かって、

祝園「水かなにか、もらえない? 喉が渇いてさ」

津田「紅茶で良かったらあるけど」

祝園「じゃ、それでいいや」

津田「二人は?」

皆藤「私も紅茶、お願い」

小地谷「ゴメン、じゃあ、俺も」

津田「オッケー」

 戸棚を開ける津田。中を覗き込みながら、

津田「茶葉はどれがいい? ダージリンとかカモミールとかローズヒップとか、いろいろあるけど」

祝園「ダージリンかな。あとで、あれ飲ませてよ。いちごの紅茶だっけ」

津田「いいよ(といいながら、ダージリンティーを淹れる準備を始める)」

 皆藤、興味深そうに目を見開く。

皆藤「いちごの紅茶? そんなのあるんだ?」

津田「あとで淹れようか。このあいだ、買ったばかりでさ。結構、美味しいんだ、これが」

小地谷「津田、紅茶、好きだったのか」

津田「まあね。学生時代は、飲み物なんて水でじゅうぶんって思ってたけど。勤めだしてさ、勤務先の近所に茶葉の専門店があって、休み時間なんかにそこに行くようになってさ、そいで嵌ったってわけ」

皆藤「へえー。津田君が茶葉のお店に出入りするなんて、意外」

祝園「(ニヤニヤと笑いながら)女目当てだろ」

津田「あたり。今の嫁だよ。一目惚れってやつだな」

 津田、お盆にカップを四つ載せてキッチンから出て来る。(キッチンは対面式)

小地谷「お前が一目惚れとは、それはそれで意外だな」

 津田、戸棚から砂糖壺を取り出し、テーブルの上に置く。

津田「似てたんだ」

小地谷「何が?」

津田「鈴木に似てる店員がいると思って、それで気づいたらつい、店に入ってた」

 黙り込む四人。

 しばらくの間、無言で紅茶をすする。

皆藤「……なんか、同窓会っぽくないね、これ」

 皆藤の視線は、カップに落とされたまま。

小地谷「仕方がないさ。初めての同窓会だし」

 

○大学近所の喫茶店(一九七八年・午後二時)

 小地谷、祝園、津田、喫茶店の窓際の席に座っている。テーブルの上にはホットコーヒーが三つ。

小地谷「仕方がないさ、初めて出るわけだし」

 小地谷、砂糖をカップに入れかき混ぜている。祝園はブラックのまま飲んでいる。津田は手をつけようとしない。

津田「けど、俺たち、今、三回生なんだぜ。今回だめでもまた今度、なんて悠長なこと言ってらんないよ。来年もコンテストに出させてもらえる保障なんてないし」

祝園「会の中で二グループしか出場させてもらえないからな」